緩和ケア病棟から
2018年6月11日 カテゴリー : ニュースレター 活用例
日本でも、病院、訪問看護、介護の現場でのヒーリングタッチの活用が広がっています。長年に渡り緩和ケア病棟でアロマボランティアとして勤めてきた、しばたあきこHTSJ事務局長に、ヒーリングタッチをどのように活用してきたかお話しをうかがいました。
緩和ケア病棟におけるアロマボランティアの仕事
ホスピスのボランティア講習を受け、アロマボランティアスタッフとして都内某総合病院の緩和ケア病棟に通うようになったしばた事務局長。その仕事は、ガン末期患者へのアロマトリートメントの他、患者さんの話し相手やお茶サービスを行うことでした。患者さんへのアロマトリートメントの施術は、ボランティアプログラムの講習で指導された決められた手順で、膝から下の脚と足に施術するというものでした。実際に患者さんへの施術を始めると、「やさしく触れても、指の跡がついてしまうくらいパンパンにむくんだ方や、骨と皮だけの状態の方が多く、触れても大丈夫なのかと思うこともしばしばありました」(しばた)
ヒーリングタッチの手技が役に立った
「いつお会いできなくなるかもしれない患者さんの足に、アロマトリートメントを行います。(前述のような身体的状態の時には)ヒーリングタッチで学んだ手技が大変役立ちました」と、事務局長。手を動かさなくても、手で身体に触れなくても患者さんに心地よさをもたらすことができる、たとえ、アロマトリートメントのように身体に刺激を与えなくても、トリートメントをすることができるのです。オイルを塗布した後、そっと優しく手を足や足首、膝などに触れておくだけで、痛みを訴えていた患者さんが眠りにつくことも度々あったとのこと。
こんなエピソードもあったそうです。「ある時、アロマトリートメントを行うために、長期間入院されていた患者さんの病室へ入ったら、患部を押さえながら『痛い、痛い』ととても辛そうなご様子でした。私は、気づくと、即座にペインドレイン(編注:痛みに対するヒーリングタッチのテクニック)をしていました。『あ・・・。少し痛みが・・薄れていく・・・』と患者さんはおっしゃり、付き添っていたお子さんたちは『ぜひ、それを教えて欲しい』とおっしゃったので、痛みのある部分に優しく触れる方法をお伝えしました。翌週に訪ねた時、『あれをすると大分落ち着く』とのことで、患者さんもお子さまも『不思議な魔法だ』とおっしゃっていました」(しばた)
また、患者さんの心の状態も様々です。「ある日、80代の患者さんにアロマトリートメントを行っている時、大きな独り言のようなつぶやきが聴こえました。『私は、生きたくても生きられないし、ましてや自分から死ぬこともできないの』私は、ただただまるで祈りのように手を触れていることしかできませんでしたが、ヒーリングタッチで学んだ施術者の姿勢、『癒しの存在(編注:無条件の愛をもって相手の存在をそのまま受けとめること)』として、そっと寄り添うことができました」(しばた)
ヒーリングタッチの学びと緩和・終末期ケア
かつて病気を患った時の医療担当者の対応に疑問を持ったというしばた事務局長は、初めてヒーリングタッチを知った時、身体そのものの対処療法だけではなく、心や感情、魂の滞りを取り除くという全人的な癒しが必要であるということ、そして、道具も何もいらず、思いやりの気持ちがあれば、誰にでもできるということが、心に響いたといいます。会社員として勤めていた頃は、自分の部下に対して厳しかったということですが、ヒーリングタッチを学び始めて、人の痛みが分かるようになり、相手に対する思いやりの気持ちが芽生えたといいます。また、「身内がガンを罹って終末期を迎えた時も、家族がパニックになっていても、今までとは違って受け止めることができるようになり、動揺しませんでした」とのことです。
施術者のセルフケアを重視するヒーリングタッチ。事務局長は、毎日、セルフケアを欠かしません。続けることによって、気持ちのよい一日をスタートでき、心身がより健康になり、穏やかな気持ちで生活できるようになっただけでなく、感情面での怒りやイライラ、不平不満がずいぶん少なくなったといいます。また、「愛と許し、そして感謝する気持ちを感じることが多くなり、なによりも、何か障害があると、それを学びだと思えるようになったことが、大きな成長でした」(しばた)
このような学びと経験を経て、日々のセルフケアを通じて、「まず自分が健康であり癒されていることで、他人に癒しを提供することができます」と事務局長は言います。死に直面している患者さんがどのような状態であろうとも、動揺せず、心を開いて、そのままを受け止めることができる、そうヒーリングタッチの学びが導いてくれたとのことです。
文・取材:戸田美紀 HTSJ